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物類品隲

甘蔗培養并製造法○中略♯択地之法♯甘蔗漢土にても、江析、閩広、湖南、蜀川等の地に出づ、就中閩広の間猶繁し、他方合併して、其十が一お得と雲へり、此物本南地に出づ、故に寒お畏る、寒国には植といへども、糖出ること少し、北地には植べからず、近世尾張知多郡、長門細江の辺、多植て製し出す、其他植ること未多、按ずるに和泉、紀伊、伊勢、志摩、伊豆、駿河、四国、九州の諸国是お植べし、此物来砂土(すなましりつち)お好む、黄泥(あかへな)等の地には植べからず、海に近き河浜州土に植るお第一とす、土お試には、坑お堀こと尺余、沙土お口に入て、味苦ものは植べからず、又土の味甘くとも、深山上流河浜等には植べからず、蔗質日お不懼、処処海島水利悪して、水田となしがたく、或は生田(しんがい)、又川水溢て、沙土の入たる地、他物の植がたき処も、是お植て長じ易し、♯貯茎之法♯甘蔗実なし、茎お切て植れば、節の傍芽お生ず、呂恵卿所謂草皆正生嫡出、惟蔗側種、根上庶出、故字従庶也と雲もの、是なり、茎お貯るは、冬初霜将至とき、茎お土中に埋め、水湿の入ざるやうにして貯置なり、大抵芋種お貯るに似たり、根お貯るも、其法同じ、♯植茎之法♯茎お出し植ること、天工開物には、雨水の前五六日、天色清明即開出すと、雨水は正月の中なり、処によりて余寒強き地にては、早く植れば茎朽るなり、是は土地の寒暖によりて遅速あるべし、茎お堀出し、籜お去、二節づヽに伐り、暖なる地お択て是お植ゆ、植る法は、茎の本と末と少づヽ重合て、魚鱗のごとく繁く植べし、茎に節あるゆえ、芽の出処両方にあり、是お植て一の芽上に向へば、一の芽下に向ゆえ悪し、両芽とも横に向へば、各芽お出すなり、掩土薄くすべし、芽長ずること一二寸にして、清糞(うすごえ)水お澆、六七寸に至て分ち栽べし、♯分栽之法♯前の如く一たび植て、芽六七寸も出たる時、別地に畦お作りて移植べし、畦お作ること闊さ三尺、畦の中犂溝(みづ)お堀こと深さ四五寸、蔗お溝内に栽、その間各一尺七八寸、掩土寸許、土厚ければ芽お出すこと少し、芽三四箇より六七箇出る時、漸漸に土お下し、時時犂耕して土お加ふべし、土お加ること漸厚ければ根深し、根深ければ茎長じて倒の憂なし、長一二尺に至れば、芸薹枯(あぶらかす)お水に浸して灌べし、月に二三度犂耕して草お去り、根に培ふべし、六月以後傍より生たる茎は、悉切去べし、♯伐茎之法♯漢土にて五領以南甚暖にて、冬霜なきの地は、蓄蔗不伐、年お経て製したるもの、糖甚好と雲り、本邦にては霜なきの地なし、蔗霜に遇ば即枯る、久お経ること能はず、気候お考へ、霜降んと思ば、是お伐べし、然ども若伐こと早ければ、其漿未満、故に糖少し、時候お考ること、猶心お用うべし、