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物類品隲

甘蔗培養井製造法♯甘蔗数種あり、〈○中略〉按ずるに蔗類多しといへども、是お約するに、果蔗、糖蔗の二種なり、果蔗は其茎生にて啖ふ、取汁適口、世説、顧長康毎食蔗自尾至本と雲もの是なり、此種は砂糖にはならず、隻茎お果となして食のみ、其種未伝本邦、或雲薩摩に在と未目撃、糖蔗は其茎堅して生にて啖ば唇舌お傷る、是お製して糖お造るべし、煎汁未結砂ものお蔗糖(○○)と雲、又蔗糖と雲、〓含南方草木状雲、呉孫亮使黄門以銀椀井蓋就中蔵吏取交州所献甘蔗糖と、漢土にも往古は砂糖お製することお知ず、故に蔗糖お以て貴人の食に供すと見えたり、唐に至て西域より法お伝て砂糖お製す、其品亦数種あり、黒糖(○○)一名紫砂糖、一名紅砂糖、一名赤砂糖、和名くろざたう、此物蔗の老嫩と製法の精粗によりて、色或は黄或は帯紫帯紅ものあり、今薩摩より来るものは紫黒色、福州より来るものは紅紫色なり、共に皆黒糖なり、再製して色白ものお白砂糖(○○○)と雲、一名白糖、和俗亦しろざたうと雲、白糖に三等あり、上お清糖(○○)と雲、又潔白糖又洋糖と雲、和俗大白砂糖(○○○○)と雲もの是なり、中お官糖(○○)と雲、和俗是お中白(○○)と雲、下お奮虎(○○)と雲、和俗しみ(○○)と称するもの是なり、三〈ひ〉製して凝て石のごときお石蜜(○○)と雲、又凝水又氷糖と雲、和俗是お氷砂糖(○○○)と雲、按ずるに綱目沙糖お指て、直に紫砂糖とし、石蜜白沙糖お混じて一とす、是亦有味、沙糖は蔗汁結砂の名なれば、黒白ともに通称すべきなり、然お蘇恭曰、沙糖出蜀地、窄甘蔗汁、煎成紫色、東壁又砂糖此黒沙糖也と雲ものは、砂糖其初出もの黒糖にして白糖は後世に至て製出す、故に本草家砂糖と指ものは黒糖なり、譬ば稲は糯粳の総称なれども、本草家稲と指すものは糯なり、是と例お同す、又石蜜と白砂糖お混ずるものは、其形異なりといへども、其功同お以てなり、沙参の条下羊乳お出す例のごとし、夫砂糖は人家有用の品にして、昔し和産なし、故に漢土及蛮国より多く渡る、享保中台命ありて琉球より種お伝ふ、是即糖蔗なり、〈○下略〉