[p.0896][p.0897]
重修本草綱目啓蒙
二十二蓏
沙糖♯増 黒沙糖は薩摩(○○)お最上品とす、黒色にして紫色お帯ぶ、其味軽くして猶美なり、餡(あん)となすに久くして味損せず、其他肥後(○○)、肥前(○○)、安芸(○○)、阿州(○○)、讃州(○○)、土州(○○)、予州(○○)、紀州(○○)、泉州(○○)、尾州(○○)、駿州(○○)、遠州(○○)、勢州(○○)よりも出づ、然れども阿州、讃州、肥後には白糖多く、黒糖は甚少なし、地によりて黒糖に宜きと、白糖に宜きとあり、阿州、讃州、肥後などは白糖に宜く、黒糖に宜からず、黒糖に製すれば甚だ下品なり、故に白糖は此三州より出づ、その他州は皆黒糖のみなり、又しろじたと呼ものあり、紀州、泉州、又東国(○○)よりも出づ、但尾州よりは出でず、これは蔗汁お一応煎じて、全く製煉せざるものなり、再び製すれば白糖となる、然れども甚下品にして用ゆるに堪へず、其まヽなれば、餡羊羹等何れにも加へ用て佳なり、又唐山より来るものは、皆白糖なり、希に黒糖の来ることあり、久く渡らざるに、天保十四年に少し渡る、舶来白沙糖の上品お三盆白と雲、其次お雪白、其次お上白、其次お太白と雲、本邦にては上品の者お、単に太白と称すれども、舶来の太白は、本邦の白じたお以て製したる、二番白と呼ものと同じ、最下品の称なり、出島と雲ものは、蛮舶持渡る上品なり、大坂虎屋、及び大手の饅頭、伏見駿河屋の羊羹等は、出島と太白お雑へ能く煮て、水気お耗らして後これお用ゆ、故に数日お経て敗れず、又和製は煮れば愈黒みお帯ぶ、舶来のものは煮れば愈白くなる、是和漢の差なり、