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今昔物語
二十八
越前守為盛付六衛府官人語第五今昔、藤原の為盛の朝臣と雲ふ人有けり、越前の守にて有ける時に、諸衛の大粮米お不成ざりければ、六衛府の官人下部に至るまで、皆発て平張の具共お持て、為盛の朝臣が家に行て、門の前に平張お打て、其の下に胡床お立て、有る限り居並て、家の人おも出し不入ずして責め居たりけり、〈○中略〉門お開たれば、左右近の官人舎人皆入ぬ、中門の北の廊に長筵お西東向様に三間許に敷せて、中机二三十許お向座に立て、其れに居うる物お見れば、塩辛き干たる鯛お切て盛たり、塩引の鮭の塩辛気なる亦切て盛たり、鰺の塩辛(○○○○)、鯛の醤(○○○)などの諸に塩辛き物共お盛たり、