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鮓は、すしと雲ふ、酸(す)しの義にて、飯と塩とお以て魚お蔵し、酸味お生ずるに至りて食するより名づく、鮓には馴鮓と早鮓と二種あり、古へに謂ゆる鮓は皆馴鮓なり、之お製するには、塩お糝して魚お圧すること一夜、水気お拭ひ浄め、冷飯お用いて桶に蔵め、重石お以て之お圧すること若干日、味熟するに至りて之お食す、全国到るところ之お製せしかど、就中近江の鮒鮓、大和吉野の鮎鮓、山城宇治の鰻鮓等、最も世に聞えたり、早鮓は酢お加へて之お製り、一夜お経て食するお以て一夜鮓の名あり、亦之お生成(なまなり)とも雲ふ、徳川幕府時代に至り、江戸にて握鮓、巻鮓等お製り、京坂お始め一般に流行し、馴鮓大に衰へたり、