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嬉遊笑覧
十上飲食
調味抄に、かまぼこ、竹に巻形お名とせり、近代杉板よし〈是こと雍州府志にも雲り〉と雲る是なり、竹輪かまぼこ(○○○○○○)の名は、桜陰比事にみゆ、むかしのかまぼこは、洩(ゆで)熟ることなく焼たるものなり、石屋の宗山が明暦の火災に逢たる記録に、正月十八日本郷お弓町料理する人ありて、それおくひに行たるに、火事起りて庭に火のこ落る、勝手に行て見候へば、膳立出来、汁などもりかけ是あり、庭に長火鉢お置、杉大板のかまぼこ焼ちらし有之候お、客三人にてこれお懐に入、膳棚に菓子盆に見事なる枝柿蜜柑鉢につみおけり、是おも懐中して、はや此家に火かゝり申故、亭主に暇乞申さず雲々あり、娘容儀は享保二年の草子なるに、やきたてのかまぼこに、生醤油つけて板ぐちかぶり雲々いへり、是にても知べし、