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守貞漫稿
後集一食類
蒲鉾〈○中略〉今製は図の如く〈○三図略〉三都ともに杉板面に魚肉お堆し蒸す、蓋京坂には蒸たるまヽおしらいたと雲、板の焦ざる故也、多くは蒸て後焼て売る、江戸にては焼て売ること無之、皆蒸たるのみお売る、上図は三都ともに普通とするの形也、京坂一枚四十八文、六十四文、百文也、江戸は百文、百四十八文、二百文、二百四十八文お常とす、蓋二百文以上多くは櫛形の未焼物也、又下図の如きは、大坂、及び摂の尼け崎、兵庫、泉の堺等にて製之、京都に漕し売る者櫛形に似て短く、粗製塩お多くし、必らず焼たり、是遠境より遣之もの故に、焼ざれば腐れ易き故也、又三都とも別に其工に命じて精製する者あり、或は庖丁お雇て製之等は必らず精製也、江戸精製のものは櫛形お専とする也、近年これお蒸ずして焼お良とする也、然ども必らずとせず、三都とも精製は鯛ひらめ等お専とす、又京坂は鱧製お良とす、江戸は虎ぎすお良とす、凡製のものは三都とも鮫の類お専とす、鮫の類数種あり、名お略す、又京坂凡製のものは豆腐の水お去り、加之又浮粉と号し、小麦葛お加ふ、江戸にては米の粉お加ふ、又文政比以前は、烏賊お用ゆることお知らざりしに、其以来は槌にて叩き、後磨肉となし用之、