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渡辺幸庵対話
一三浦壱岐守明政殿、料理数奇にて豆腐お三十六色に料理し(○○○○○○○○○○○)て、此名お歌仙豆腐と付られたり、或時予がいふ温飩豆腐(○○○○)などの細く作りたるおきれず、いつ迄も煮てかたまらず、煮て出候様は如何といへば、壱岐守殿されば日頃是も困りたり、先切安く久しく煮れば堅く成、さつと煮れば盛に切れ、何共ならぬと被申候故、左候はヾ我等細く作り、いか程煮ても堅くなく、盛に少も切れ不申様、料理可致と雲て、庭の茶屋にて勝手の人お払て、そこへ伝授いたしたる如くに切り水お捨、さて塩梅よく煮よと、料理人に渡しければ、毎の如く煮て盛出しけるに、細くして少も切れず、和らかにこれ有、壱岐守殿初め一座被驚ける也、松平長門守殿にも右の通にして進候得ば、我お折御懇望故に、おしへ申候得ば、なまこも如此製法にて煮たらば、宜敷可有之と、追て御料理有ける也、