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老の長咄
さるものいふ、豆腐こそめでたきものはあらじ、我等好みて日々喰す、豆腐おすくものは果報ありとや、われ豆腐すきなれども、かくのごとく貧しきくらしなり、もしや嫌ひにてもあらば、水も飲事あたはじといふ、かたへの人いへるはさにあらず、何国の山里浦々にいたりても、とうふのなき所はなし、おのれがすくものあればことおかゝず、これゆへ果報ありといふなり、おもしろし、又紀迪といへる老人がいはく、されども豆腐に一つの難あり、せめて一てうに銀五匁程もせよかし、そのあたひの下直なるこそうらみなれといふに、しかなり〳〵と答ふ、