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漬物は、つけものと雲ふ、つけはひたすと雲ふに同じく、ひたしものと雲ふが如し、漬物お或は香物とも雲ひ、香々とも雲ふ、香々は香物の重言なり、蓋し香物の名は、足利幕府以後起る所にして、味噌漬に限れりと雲ひ、或は塩漬にても味噌漬にても、糟漬又は糠漬にても、唯其芳香あるお以て名づけたりと雲ひ、或は香の附星に効ひて之お製せしによりて、名お得たりとも雲ふ、凡そ漬物には塩漬、糠漬、醤漬、味噌漬、糟漬、麹漬等の数種あり、味噌漬は、野菜お始め、其他種々の物お味噌に漬けたるお雲ひ、糟漬は洒糟に漬けたるお雲ふ、之お奈良漬と称するは、奈良は酒の産地にして、糟の味甘美なるお以て、独り其名お擅にするに至れり、其他或は酒に浸し、或は醴に漬け、或は酒と酢とお混合して漬けたるものあり、其製法と材料とに由りて、種種の名称お附す、漬物、漬菜の名は、既に延喜式に見え、葅、須々保利、糟漬、醤漬、味醤漬等の名も見えたれば、当時既に種々の製方ありしなるべし、然れども其詳なることは知るに由なし、梅干は、成熟せる梅子お採りて塩に漬け、後之お日に〓して乾燥せしむるに因りて此名あり、