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碩鼠漫筆
十一
香物名義古くは香物の名目、物に見えず、疑ふらくは室町の中頃よりの物か、〈○註略〉此香物は、味曾漬に限れる名にて、〈もし禅僧などの製しそめしにもあるべし〉もとは塩漬のみなりしなるべし、其塩漬のことに古きは、延喜中務省式に、女官漬菜料等塩、各見本司式、また儀式巻二〈大嘗祭条〉に、其南縦七間、造筥形并漬菜屋一宇、〈東西戸、一東面有庇、〉と見えたり、又後ながら無住〈の〉雑談集巻二に、或上人鶏卵お取てゆでヽくひけるが、小法師にかくして茄子漬と名づけて食しける、〈○中略〉と有るも亦塩漬の茄子なるべし、但し上臘名事、〈女房ことば〉に、あさづけ、あさ〳〵とあるは、今も雲ふ大根漬にて、やゝ後世の俗名なるべし、〈字鏡集水部に漬(し)つけものと雲ふ事も見ゆ、○中略〉此香物と雲ふ名の味曾漬に限る由は、味醤の異名お室町頃より女房詞に香と雲へば、香に漬たる物と雲ふ義なり、〈○下略〉