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四季漬物塩嘉言
糠味噌漬(○○○○)〈又酴〓漬(どぶ /○○○)ともいふ〉万家ぬかみそ漬のあらざる所もなけれど、世俗には取遣せぬ物のやうにいひならはせしかど、とるにも足ぬ事共なり、又新には急に出来がたき物のやうに思ふやからもあれば、心得の為に援にしるす、糠一斗、塩五升、右糠の小米およくふるひ取て、塩五升に水五升お鍋にて煮かへし、〈寒の水なれば、ひとしほよし、〉一夜さまし置、糠にまぜて桶へつけるなり、〈せうゆ樽ならば、此分量にて、見はからひあるべし、〉あらたに拵たる当座には、毎日たび〳〵手お入れて掻廻すべし、故き沢庵大根お四五本、糠のまゝいれ、生大根又茎でも、時の有合もの、茄子瓜のたぐひ何にかぎらず、漬るたびごとに、塩すこしづゝ入てかきまわすこと肝要なり、かくして十余日お経れば、糠よくなれて、故き糠味噌に異なることなし、又なれたる糠みそお少しにても種にいるれば、猶はやく新糠の匂ひうせるもの也、ことさら新しきうちは、かんざまししたみ、酒醤油のおりなどあらば、いれてかきまはすべし、味噌漬のみそ、又粕漬のかすなど、むざと捨ずして、万事心がけて捨らぬやうにぬかづけの中へいれべし、三十日ならずして、年久しくたしなみたるぬかみそにかわる事なし、時々の物おつけて、其あぢわひおこゝろむべし、