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四季漬物塩嘉言
沢庵漬〈俗にいふ、沢庵和尚の漬始し物といひ、また禅師の墓石丸き石なれば、つけ物の押石のごとくなる故に、然名づけしともいふ、又一説には蓄(たくはへ)漬の転ぜしともいふ、何はともあれ、人間日用の経済の品にして、万戸一日も欠べからざる香の物の第一なり、〉大根の性よきおえらび、土お洗ひ、日あたり能処へ乾場おしつらひ、十四五日乃至廿日、編て日にかわかし夜分霜げぬやうに手当して干て、小皺の出来たるほどお見て漬るなり、桶は四斗樽の酒の明立は殊更よし、又古き四斗樽おつかはゞ、米などお入れて、底の間にはさまりいるは甚あしゝ、米粒あれば、酸味お生ずる物なり、心付べき事なり、小糠もよくふるひ、小米のまじらぬやうにすべし、〈因にいふ、古き樽はしめしたりとも、塩水はもるものなり、用心あるべし、〉一樽の分量は、糠塩合せて一斗、大根の大小によつて差別あり、凡大根五六十本、又は七八十本、或は百本、小糠七升、塩三升、塩糠共によくもみ合せ、桶の底の方へは大根のふときおまわし、一段一段に糠おふりて漬るなり、随分圧の強きおよしとす、水の一杯にあがるお度とするなり、夫より押石お少しゆるめ、塩水のこぼれぬやうにしてたくわふ、〈是は冬より漬て、あくる春正月、口おあけるのなり、かくするは二三月頃までに、つかひきる仕法なり、又麹一枚お入るもあれど、それにもおよばぬことなり、○中略〉又四五月後、夏の土用越には、糠六升、塩四升、五升、五升と等分にするもあり、糠お減じ塩がちにすれば、いつまでも味のかはることなし、 同三年沢庵〈又五七年漬〉年久しくたくわへ置には、糠は右の分量に准じて、三年ならば糠お減じて塩の方二升余も増し、五七年ならば四升計りも増なり、一け年にあてれば、塩七八合ほど余分にすべし、大根も並より五六日ばかり乾き過ぎたるやうにほして漬るなり、是とても水の十分にあがりたるとき、一端圧おゆるめて、大根に塩水お吸して、又元のごとくに押おかけるなり、沢山に漬る時は、桶お三つ位積重るもよし、 沢庵百一漬(○○○○○)秋茄子お塩圧にして畜置、春はやく口おあける沢庵漬の大根の間に、右の塩押茄子お挟みつけるなり、〈○註略〉一桶に常より塩五合も減じてよし、茄子の塩出る故なり、大根の風味も至て加減よく、茄子にも大根の甘み移りて味ひよし、春の香の物になすびは、ことさら珍しく、客遣ひにも成べきなり、是お百一漬といふ、