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甲子夜話
十七
上杉家年始祝膳に、大根漬お大く一切にして設くるお重き祝とすることの由、これ音通にて人切の香物と雲とぞ、一年庖丁の小吏誤りて取落して膳お進めしかば、速に有司その罪お論ぜり、時は鷹山〈○上杉治憲〉の代中なりしが、其事よしとも、あしヽとも挨拶なく、傍の硯引寄て、治れる御代のためしにかうの物ひときれさへもわすられにけり、と書て有司に授られ、目出たし目出たしと雲ながら、奥に入られしとぞ、