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続近世奇人伝

大橋東堤 永田観鵝〈○中略〉観鵝永田氏、名忠原、字俊平、一号東皐、又黎祁道人といふは、豆腐お嗜むこと甚しければ也、〈黎祁は豆腐の異称なり〉又一奇僻は、糠漬の菜〈俗に香物といふ〉お悪むこと蠱毒のごとし、吾儕席お同じうする時も、これお喰ふことお憚る、甚香お忌が故なり、或尊貴へ参りし時、御戯に試んとおぼして、此物お幾重もつつみて、御手づから下し賜せしお、とりもあへず、顔真青になり、物おぼえずなげすてゝ走れり、其公もあまりにて、よしなきことせしと悔させ給ひしと也、