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松の落葉

男女
男おおといひ、女おめといふ事は、いにしへより今にかはらす、男女とつヾけては、今はおとこおんなとのみいへど、いにしへはおのこめのこといひし事にて、日本書紀の皇極天皇巻に、男女のもじおしかよめりき、神代紀に少男少女お、おとこおとめとよむべきよししるされて、おとこはわかきおのこの事にて、おとめにのみたぐへいふべきことわりなるに、万葉集廿の巻に.秋野爾波(あきぬには)、伊麻己曾由可米(いまこそゆかめ)、母能乃布能(ものヽふの)、乎等古乎美奈能(おとこおみなの)、波奈爾保比見爾(はなにほひみに)、といふ歌ありて、ふるくよりおみなにもだぐへいへり、これはことわりにたがひたれど、奈良の京のころは、かくもいへりしなり、古今集の序にも、おとこおんなの中おもやはらげとありて、中むかしにはおとこおんなといへり、されどしかつヾけず、はなちていふときには、物語ぶみなどにも、おのこみこ、おんなみこなどいひて、とこといはず、源氏物語椎本巻にも、子の道のやみおおもひやるにも、おのこはいとしも、おやの心おみださずやありけん、おんなはかぎりありて雲々といへり、かヽればうちまかせて、男おおとこといへるにはあらざりき、さておのこめのこといふは、おめにこといふ詞おそへたるにて、うやまふ心こそあれ、いやしめていへるこヽろはさらになきお、中むかしよりは、よき人のうへにはいはず、すこししもざまの人にいふ事となれり、宇津保物語の吹上巻に、舟どもにめのこどもおりたちて、そめくさあらへりといひ、又これはうちものヽところ、ごだち五十人ばかり、めのこども三十人ばかりといへるお見るべし、ごだちはよき女房の事、めのこどもといへるは、すこししもざまの女おいへるよしなり、伊勢物語に、つとめてその家のめのこどもいでて、うきみるの浪によせられたるひろひて、家のうちにもてきぬとあるも、家につかふ女おいへり、おのこもたヾに男のことおいふには、たかきいやしきにかよはしていへれど、江家次第二の巻、叙位の条に、大臣召男共(おのこども)〈五位蔵人一人参入〉とあるお見れば、すこししもざまの人おおのこどもといへるよしなり、