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平治物語

常盤六波羅参事
常盤は今年廿三、梢の花はかつ散て、少し盛は過ども、中々見所ある二不異、本より眉目形人に勝れたるのみならず、少きより宮仕して物馴たる上、口きヽ成しかば、理正つう、思ふ心お続けたり、緑の眉ずみ紅の涙に乱て、物思ふ日数経にければ、其昔にはあらね共、打しほれたる様、猶よのつねには勝れたりければ、此事なくては、争懸る美人おば可見と申せば、有人語りけるは、能こそ実も理よ、伊通大臣の中宮の御方へ、人の眉目よからんお進ぜんとて、九重に名お得たる美人お千人被召、て百人えらび、百人が中より十人撰び、十人が中の一とて、此常盤お被進しかば、唐の楊貴妃、漢の李夫人も是にはすぎじ物おと雲へば、見れ共見れども弥珍かなるも、理哉とぞ申ける、