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閑窻自語
堤前宰相栄長卿妾醜女語
堤故前宰相栄長卿わかヽりしとき、或ものヽむすめお恋ひわたりけるに、おやなりけるもの、かたくいらへて、ゆるさヾりしお、年月おへてやう〳〵にこしらへ、とり入るべくなりしほどに、かの女庖瘡わづらひて、かたち大きにみにくヽなり、ことさら一眼しひ、かた〴〵はじめのうるはしきに引きかへ、さながら鬼のごとくなり、おやなりけるものうとましくおもひけるに、栄長卿すこしもくやめる気なく、こヽろよくとり入れて、妾にしやしなひ、一生おおくらしめぬ、見にくしとても、丈夫の一言変ずべきにあらずといはれしとぞ、たのもしとやいふべき、