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古今著聞集
五/和歌
和泉式部忍て稲荷へ参けるに、田中明神の程にて時雨のしけるに、いかヾすべきと思ひけるに、田かりける童のあおといふものおかりてきてまいりにけり、下向の程にはれにければ、此あおヽかへしとらせてけり、さて次日、式部はしのかたおみいだしていたりけるに、大やかなる童の文もちてたヽずみければ、あれは何者ぞといへば、此御ふみまいらせ候はんといひて、さし置たるおひろげてみれば、
時雨するいなりの山のもみぢばはあおかりしより思ひそめてき、と書たりけり、式部あはれと思ひて、此わらはおよびて、おくへといひて、よび入けるとなん、