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徒然草

年老たる人も、一事にすぐれたる才の有て、この人ののちには誰にかとはんなどいはるヽは、老のかたうどにて、いけるもいたづらならず、さはあれど、それもすたれたる所のなきは、一生此事にてくれにけりとつたなく見ゆ、今にわすれにけりといひて有なん、大方はしりたりとも、すヾろにいひちらすは、さばかりの才にはあらぬにやときこえ、おのづからあやまつも有ぬべし、さだかにもわきまへしらずなどいひたるは、猶まことに、みちのあるじともおぼえぬべし、ましてしらぬ事したりがほに、おとなしく、もどきぬべくあらぬ人のいひきかするお、さもあらずと思ひながら、きヽいたるいとわびし、