[p.0121]
古事記伝

祖神は意夜賀微(おやがみ)と訓べし、凡て上代は父母に限らず、幾世にても遠祖までお通はして、皆たヾ意夜(おや)と雲り、〈其証は古書にあまた見ゆ、父母は其意夜の中の一世なるが、有が中に近く親き故に、殊に其称お専と負て、後には意夜といへば、たゞその父母のみの称の如くなれりしなり、後世のならびお以て古おな疑ひそ、〉故古書には祖字お意夜と訓て、親のことにも用ひたり、〈意富々々遅意富遅などは、事お分けて雲ときの称にて、すべては何れもみな意夜なり、〉書紀には遠祖上祖本祖始祖など書て、登富都意夜と訓り、是も古称にて、万葉〈十八〉にも遠都神祖(とほつかむおや)などあり、されど此記には、何れも祖とのみありて、遠祖など書ること一も無れば、たヾ意夜と訓例なり、されば上代には、某姓の本祖と雲おも、たヾ祖とぞ雲けん、又子と雲も己が生るに限ず、子々孫々までかけて雲称なり、