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貞丈雑記
二/人品
一人の母おおふくろと雲ふは、御ふところと雲ふ事也、母は懐妊の時、子はふとこうにある故也、ふところお略して、ふころといひ、ふころと雲詞転じて、ふくろに成たる也、今も薩摩国の人は、人の母お御懐(ふところ)と書也、袋と雲にはあらず、一説に、人母の胎内にて、胞衣(えな)おかぶりつヽまれて、袋に入りたるがごとくなる故、人の母お御袋と雲といへり、此説用がたし、御ふくろといふ事、旧記には見えざる名目也、后宮名目抄と雲書に、右の胞衣の事によりて、御袋と雲説見たり、其書は、大納言為兼卿の息女、御櫛笥殿中将といひし女房、鎌倉将軍の御台所へ書て、参らせられし書也と雲也、然らば久き名目歟、