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昔々物語
百二三十年以前〈○元亀天正頃〉は、女のさうどう打といふ事有し由、仮命ば妻お離別して、五十日或は一け月の内、又新妻お呼入れたる時初の妻より、必さうどう打企る、功者成親類、女と打寄談合し、男は曾て構ふ事にあらず、手前の女五三人も有之ば、親類中の達者成る女ばかり二十人三四十人百人も身代により催し、新妻の方へ使お遣す、是は家老の役なり、口上は御覚可有之候、さうどう打何月幾日何時可参候、持参道具は木刀成とも、棒成共、しない成共、其訳お申遣、大方はしないなり、先にても家老取次、新妻何分にも御詫言可申と申も有之、左様によはげお出すは、一生の大恥なり、成程御猶相待候段、返事有之、男の携はるは、此使取次計なり、其後は男一切不出会法なり、扠日限に離別の妻乗物にて、供女は皆かちにて、くヽり袴たすき髪お乱し、又かぶり物鉢巻などし、甲斐々々敷出立、しないお持押寄るなり、門おひらかせ、台所より乱れ入、鍋釜障子あたるお幸に打こはす、其時刻お考、新妻の仲人と侍女郎と、先妻の時の侍女郎、同時に出合、真中へ入、様々の言お尽し返す、むかしはさうだう打に、二三度頼まれぬ女はなし、七十年以前、八十計のばば有しに、そうどううちに十六度頼まれし抔と語りし、百年以来すきとなし、