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東雅
五/人倫
兄あに 弟おとうと 姉あね 妹いもうと 古語に兄おばせといひ、弟おばなせといひ、姉おばなねといひ、妹おばなにもといひけり、亦兄おいろねといひ、弟おいろとといひ、姉おいろせともいひ、兄弟姉妹相称して、はらからなども雲ひしは、皆是同母兄弟姉妹なるお雲ふ也、〈兄おせといひ、弟おなせといひ、姉おなねといひ、妹おなにもといひし事は、日本紀に見えしなり、其なといひ、なにといひしは、女也、兄の字旧読てえといひけり、えといひ、せといひ、ねといふは皆転語也、なせといひ、なねといふは、並に女兄(なせ)といふが如しなにもといふは、即女妹(なにも)なり、万葉集抄に、いもといふは、いは発語の詞なり、もとは向ふの義也と見えたり、古歌に兄弟の事お、箸向ふと雲ひしが如くなるべし、古の俗、妻おもいもと雲ひしは、相親しむの謂と見えたり、また同母兄弟姉妹お称して、いろねとも、いろととも雲ひし、いろとは則いろは也、母おいふなり、ねとは即兄也、ととはおと也、猶甲おえと雲ひ、乙おとといふが如し、いろせとは、えといひせといふは、転語也、則同母の兄弟おいふ、古事記に、素戔烏神自ら称して、天照大神の伊呂勢者也とのたまひし事の見えしは、弟おもいろせと雲ひしなり、昆弟相当ふの称にして、なせといひしが如きも、また此義とこそ見えたれ、はらからとは、猶同胞といふが如し、八らとは腹也、古語によりといふ詞も、あひだといふ言葉も、共にからといひけり、されば自の字間の字、並にからと読むなり、同じき腹の間より出でしお雲ひし也、たゞ其義の如きは不詳〉其後又兄おばあにといひ、姉おばあねといひ、弟おばおとうとといひ、妹おばいもうとといひ、相通じては、兄姉おもせうとといひ、弟妹おもおとうとといひ、また兄おばこのかみなどいひけり、〈あにといひあねといふあは大也、古語にあといひ、あおといび、おといひ、おほといふが き、皆相転じていひけり、にといひ、ねといふは、並に兄也、お うととは少人也、旧事紀、日本紀に、少男読でおとこといひ、少女読でおとめと雲し事の如く也、いもうととは妹人也、せうととは兄人也、このかみとは子上也、その我よりさきに生るヽ事な雲ひし也、〉