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古事記伝

兄は御阿邇(みあに)と訓べし、書紀神代巻に兄弟(あにおと)、又垂仁の巻に御子たちの次第お雲処に第一おも阿爾(あに)とよめり、又仁賢巻にも異父兄弟(はらからのあにおと)など訓り、〈此称、中昔の物語どもにも多かり、今人の心には、阿爾と雲は、俗言のごと思ふめれど、言のさまいと古し、和名抄に兄古乃加美、又母兄波良比止豆乃古乃加美とあれども、古能加美(このかみ)と雲は、本第一子に限る称なり、魁帥(ひとこのかみ)なども其中の長お雲、官司にても長官な加美(かみ)とは雲り、然るお必しも第一に限らず、ひろく弟に対て雲は、兄字お訓るから転れる後のことなるべし、されば書紀応神巻清寧巻などに、長子な訓るはよく当れり、此に先に三柱女神坐せば、長子にはあらざれば協はず、又伊呂勢伊呂泥などは、同母のお雲称なれば、是も此には協はず、然ればたゞ勢(せ)と雲ぞ、ひろく兄字によく当れゝど、此は然訓むも語調よろしからずなむ、〉