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春波楼筆記
さて亦子なき者は物のあはれお知らず、我子お愛するのあまり、其愛他の子に及べり、此情は書にも文にも述ぶる事能はず、然るに段々と生長して後は、各々己の志しおあらはし、必親の志と差ひ、己の身体、親の躬より出でたりと雲ふ事お弁ずる者鮮し、且又孝おつとむる者多からず、親お親とせざる者多し親は子お子とし、子お思ふの情深し、是己の体より出でたる故なり、今に至りて考ふるに、子は無きにしかじ、