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三養雑記

我子お称して忰といふ
せがれといふ詞は、痩枯(やせがれ)の略語にて、もと人お卑めのヽしる詞なり、その証は、室町殿日記に、主君にはなれまいらせて、すでに渇命お失ひ、乞食同前のせがれどもといひ、また武辺咄にも、丹後守大の眼お見いだして、推参なるせがれめと哼て、かけとほるなど見えたり、今は貴賤ともに、我子お称する詞となれるは、謙辞なり、倭爾雅に、忰俗作忰、今倭俗称我子曰悴、蓋謂悴者之意、猶中華称我女謂蕉萃といへり、やつがれといふも、倭名類聚抄に、奴僕和名夜豆加礼とあり、日本書紀通証に、吾憔悴枯稿之義、謙辞也といへり、かヽればこれももとは奴僕の称なり、今自称して僕とも、やつがれともいふは、我子おせがれといふに同じ、