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理斎随筆

の娵噂の捨所
六あみだ娵の噂の捨処、といへる川柳点の句あり、近き頃彼岸中に、六阿弥陀へ参詣せし道すがら、老婆三四人連にて、おの〳〵娵の噂よしあし取々に罵りありく、川柳点は実にもと心に感じたれど、余り憎気なるゆえに、予〈○志賀忍〉老婆に向ひて、扠いづれもは、けふ後生参り罪ほろぼしのために出たるならん処お、斯く娵の噂お念仏に換らるヽは、かへつて罪深かるべし、殊には嗔恚おもやし、身の養生にも悪しかりなん、けふばかりは曲て、心ゆたかに参詣あれと申ければ、老婆共聊受がはずして曰、いや〳〵左様の事に候はず、我々事、宿許にて申度事は数々なれど、それおこらへて口に出さぬ故に、いつとても胸ふさがり居るなり、けふは彼岸の功徳なるまヽ、むねに溜置たるお晴さん為に、かくは語り、合候事なり、是また、阿弥陀の御影なりと存れば、罪亡しならんとて、ます〳〵噂して止まず、是等は柄おすげたる理屈、かだましき事、そふじて婦人の心根、みなかヽる趣なるは浅まし、