[p.0276]
北条五代記

北条氏茂百姓憐愍の事
早雲まつりごとよければ、士も民もおもひよりて、北条家へ帰服す、然に我物おぼえてより近き年迄、関八州の国主其下々の侍までのおもはく、我領納する一所懸命の地は、そのかみ八幡殿よりゆづりつたはりて、子々孫々までも我所領我百姓なれば、民ゆたかにさかふるやうにとあはれみおたれ、政道なせるは、唯親が子お愛するがごとし、又百姓も我地頭殿は、おやおうぢよりつたはり、孫ひこ、やしは子の末までも、はなれぬ地頭なれば、永久に栄へおはしませと、神仏へいのり、子がおやおおもふごとし、