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古事記伝
十三
容姿は加本(かほ)と訓べし、書紀に面貌、顔色、顔容、顔貌、姿色、相貌などは固にて、容姿形容形姿貌容容止などおも、皆然訓り、万葉にも、姿貌容などあり、加本とは、先は面の形様お雲名にて、総ての身体の形様までお兼たり、右の字どもにても心得べし、〈漢文に好色など雲色お、中昔よりこなたは、御国にても伊呂といへども、そは古言に非ず、故書紀には、其意の色字おも加本と訓り、さて又今世にはたゞに面お指て加本といへども、そは違へり、此の二柱神の相似たるも、たゞ面のさまのみならず、総ての身のさまゝでお雲なれば、今世人の心には、此容姿おも加本加多知と訓では、言足ぬげに思ふめれどさにあらず、〉