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源平盛衰記

康頼熊野詣附祝言事
僧都は余りにくたびれて、隻夜も昼も悲の涙に沈み、神仏にも祈らず、熊野詣にも伴はず、岩のはざま苔の上に倒れ臥て居たりけるが、都の人の声お聞起あがれり、〈○中略〉日も既暮けれ共、僧都はあやしの伏戸へも帰ず、天に仰ぎ地に臥、首お扣き胸お打、喚叫ければ、五体より血の汗流て、身は紅にぞ成にける、