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廓の夢
忠、しんじつその気でありや〈あ〉、直に翌旦居続して、初会馴染も迷情やうだが、梅川に胆お潰させて、やりてへ、舞、もうろふ何もかも、打あけて申しいず、うへからは、どうとも主の心まかせに成いせうがね、これ迄主も、梅川さんの所へ、お出なんして、ま〈あ〉浮名も立なんす程の中で、おざりいすものお、定めてお言ひかはしなんした事もたん〈と〉おざりいまうし、恍惚したうへじや〈あ〉、ほり物(○○○)も致いすやうな事が有いすが、若しひやつと、そんな事でもおざりいす訳なら、主も隠さずに、いつてお聞せなんし、忠、成程おめへのすいりやうの通り、ほり物もして居やすが、そりや〈あ〉、今にも消して仕廻やす、舞、そんならきれへに消てお仕舞なんすかへ、忠、知れた事〈さ〉、あいつが名お火あぶりにしても、未わつちが腹は愈せん、〈○中略〉これより忠兵衛は、もぐさおもつて、腕のほり物、梅川が名お焼消す、