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古事記伝

頭は御加志羅(みかしら)と訓べし、和名抄に首加宇倍頭訓同上、一雲賀之良とあれど、又顱加之良乃加波良、髑髏比止加之良なども有て、加之良と雲ぞ正しき名なる、〈美久志と訓は、凡て貴人のおば後にも加之良とはいはで、然雲めれど、久志はもと髪のことか、くしけづると雲も、髪おけづるなり、さて髪おげづる具なれば、櫛おも久志とは雲か、そはくしけづりと雲べきお、略て然雲は、たとへば庖丁がつかふ刀なれば、庖丁刀なるお、やがて其おも庖丁とのみも雲、田子の持つ桶なれば、田子桶なるお、田子と俗の雲も同じ、さて髪のある処なるゆえに、頭おも美久志とは雲か、加宇倍も髪方(かみべ)なり、しかはあれど、櫛の名はいと古ければ、此お本にて、其お刺処なる故に、髪おも頭在もいふなるべし、いかにまれ頭おいふは古語ならじ、〉