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太平記

主上御没落笠置事
同〈○元弘元年十月〉十三日に、新帝〈○光厳〉登極の由にて、長議堂より内裏へ入せ給ふ、供奉の議卿花お打て行装お引刷ひ、随兵の武士甲冑お帯して非常お誡む、いつしか前帝奉公の方様には、咎有も咎無も、如何なる憂目おか見んずらんと、事に触て身お危み心お砕けば、当今拝趣の人々は、有忠も無忠も、今に栄花お開きぬと、目お悦ばしめ、耳おこやす、子結んで陰お成し、花落て枝お辞す、窮達時お替、栄辱道お分つ、今に始めぬ憂世なれども、殊更夢と幻とお、分兼たりしは此時也、