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新著聞集
七/勇烈
強力く担ひ耳力得金
森四郎左衛門と雲るは、勢州一身田の者なりしが、江戸にて鎌田又八と間所に居けり、ある時四郎左衛門がいはく、その方いかに強力なり共、自が耳には及ぶまじとあれば、これぞゆヽしきか角(くらべ)見んとて、人々取はやし、耳お柱におしあて、中間に小判一両はさみ、片耳おひき、若小判おとしたらんには曳手に与へ、又曳えずんば一両出すべしとの約束にて、さしもの又八今おかぎりの力お出し曳しに、少しも動かず、後には又八が腰に綱おつけ、二十人あまりとり付ひきしかど、更にゆるがざりしかば、又八負て金お出しけるとなり、