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塩尻
五十五
又曰、長崎の婦人、男のごとし、眉毛(○○)お生して常とす、年老たる女の額おかし、平戸なんども同じさまなりしが、近年国の守より令して、領内の女眉お刺侍る迚、珍らかなる様にいへるとて物語せし、平家物語にや、鬼界が島の事おいへるとて、男は立えぼしもきず、女は髪おもさげずといへり、そのかみは、是お片田舎の俗として、にげなく思ひけるなるべし、今の人は、大家といへども元服の姿なく侍る、〈賢按、元服のすがたとは烏帽おかむる事なり、〉凡女はいつも眉お抜侍るに、西のはづれには、いまだかヽる事侍るにや、但し異邦の人おかしかれば、眉お生じ侍るかしりがたしとて笑ひ侍りし、