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安斎随筆
後編四
眉払 婦人養草に雲、ある老女の予に物がたりしけるは、大内にては、眉はらふと申也、地下にてはつくるといふ、男の眉おば右よりつくるべし、女房は左より作るべしと、又左右の眉は日月にたとへたれば、月のさはり有る時は、東に向つて眉作るべからずといへり、日本にても眉に種々の名あり、鶯眉、朏(みかづき)眉、宣(わすれ)眉、霞眉、大形岸立(きしたて)眉、是はおさなき人につくる眉也と、又唐(から)眉、是はいたつて年たけたる人に作る眉也と、あいかまへて、右より作り始べからざるよしいへり、鉄漿つくる事も、春の初につくるには、堅牢地神に手向べし、おはぐろとは、公家方より申ならはしたり、是お内裏にては、ふし水と申給ふ、下種つけがねと雲ふと、物語に仍て、今こヽに書つく、