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倭訓栞
前編十九/那
なみだ 涙およめり、泣水垂るの義にや、新撰字鏡に汕おなむだとよめり、今もなんだともいへり、万葉集に恋水およめり、涙の玉、涙の雨、涙の淵.涙の滝などはよそへたる辞也、涙の浦菅万に見ゆ、古今には涙の床と見ゆ、楽天が詩に、夜涙似真珠双々堕明月とも見えたり、伊勢物語に
我世おばけふかあすかとまつかひのなみだの滝といづれ高けん、又なみだの滝は日向国にあり、
千鳥なく涙の滝にふる雪はおもひに絶て消ぬとそおもふ、涙は字彙に与れ涙同と見えたり、〈○中略〉なみだにかすむは老人の体也、杜詩に、老年花似霧中看といひ、父感時花濺涙と見ゆ、草菴集に よな〳〵の月こそあらめ老てみる花も涙にかすむ春かな