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十訓抄
十二
十月ばかり月あかヽりける夜、経信卿お宗として、宗俊卿政長朝臣、院禅慶禅、長慶、楽人三四人、宰相中将隆綱管絃者にはあらねどもすきも、のにて伴ふ、又少将俊明など各車に乗て、五節命婦世おそむきていたる嵯蛾の家に行にけり、〈○中略〉秋風楽三反、蘇合みなつくして、万秋楽の序より五帖まで有けるに、なみだ落さぬ人なし、此うち俊明何事にもすべてなかざりければ、犬目(○○)の少将といはれけるぞ、こよひは人にも勝れて、袖おしぼるばかりなり、〈○下略〉