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枕草子

宮〈○一条后藤原定子〉にはじめてまいりたる比、物など仰られて、我おば思ふやととはせ給ふ、御いらへに、いかにかはとけいするにあはせて、だいばん所のかたにはなお高くひたれば(○○○○○○○○○)、あな心うそらごとするなりけり、よし〳〵とていらせ給ひぬ、いかでかそらごとにはあらん、よろしうだにおもひきこえさすべき事かは、はなこそはそらごとしけれとおぼゆ、さてもたれかかくにくきわざしつらんと、大かた心づきなしとおぼゆれば、わがさる折も、おしひしぎかへしてあるお、ましてにくしとおもへど、まだうい〳〵しければ、ともかくもけいしなおさで、明ぬれば、おりたるすなはちあさみどりなるうすやうに、えんなる文おもてきたり、みれば、
いかにしていかにしらましいつはりおそらにたヾすの神なかりせば、となん、御けしきはとあるに、めでたくも口おしくも思ひみだるヽに、なおよべの人ぞたつねきかまほしき、〈○下略〉