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瘍科秘録

兎欠兎欠の各は病源候論に出づ、潅南子には欠脣と雲ひ、博物志には脣欠と見ゆ、本邦にてはいくちとも、又はづくちとも雲、其形状の兎脣に似たるゆえ、兎欠と名けたるなるべし、姙娠の時に、兎肉お食ひ、或は兎お見るときは、其見必ず欠脣お患ると、漢の頃より説来れども、信用す可らず、一説に、児胞衣の内に在るとき、居様(いやう)あしくして、自ら爪お当て裂ると雲ふは、猶無稽の言とす、此は駢拇枝指などヽ同様にて、自然に生れ附ものなり、青柳村に兄弟四人兎欠に生れたる者あり、此症人中のみ裂け、鼻下にて止りたるは、至て軽症にて治し易しとす、或は鼻孔の内へ裂け込もあり、或は齦肉(はぐき)及び、上腭(うはあけ)まで裂もあり、或は人中の側左右二筋、に裂るもあり、或は歯牙の突兀と聳出て療治お施し惡きものあり、術お施すには、二、三歳お猶良(よし)とす、初生と成人とは療治に直しからずと雲ふ説あれども、予〈○本間和卿〉は初生おも二三十歳の者おも数療治するに、又妨ることなきやうに、覚ゆ、