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多聞院日記
永禄九年三月十六日、今暁、夢に愚〈○英俊〉歯五落つ、夢心に、小塔院へこむべし、勤行の声も聞やうにと持行処、坊主と思ふ人、故舞禅房法印にてありし、彼人雲、此間色々道具共預て、御無心申、悦喜すとて、西向の部屋へ同道して、是は大師秘術お尽して置給ふ所也とありし、見れば、〈○中略〉清潔なる井水大なる壼おうづみてあり、則其内へ五のはお入て帰れば、又日中に少き歯一つおちてありし、夢覚て日記お見れば、去月此比歯落と見し、可有愁憂前相歟と無心元ありし、胤継律師御房御遠行、万事はてきり不及是非候処、又如此夢お見る間、弥仏事かと心細き物也、妄想も常之事なれども、去月の事慥なれば、誰か又疑はん、せめて露命消なん、来生の善悪はしらね共今世の苦悩は止ぬべき者哉、