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太平記
二十六
四条縄手合戦事附上山討死事
武蔵守一足も退く程ならば、逃る大勢に引立られて、洛中までも追著れぬと見へけるお、少も漂ふ気色無して、大音声お揚て、蓬(きたな)し返せ、敵は小勢ぞ、師直援にあり、見捨て京へ逃たらん人、何の面目有てか将軍の御目にも懸るべき、運命天にあり、名お惜まんと思はざらんやと、目おいらヽげ歯嚼(○○)おして、四方お下知せられけるにこそ、恥ある兵は引留りて、師直の前後に扣けれ、