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奥州後三年記

将軍〈○源義家、中略、〉千任丸おめし出して、先日矢倉の上にていひし事たヾ今申てんやといふ、千任頭おたれてものいはず、その舌おきるべきよしおいふ、源直といふものあり、寄て手お持て舌お引出さんとす、将軍大きに怒りていはく、虎の、口に手おいれんとす、甚だおろかなりとて追立、ことつはものいできて、えびらより金ばしおとり出し、舌おはさまんとするに、千任歯おくひあはせてあかず、かなばしにて歯おつきやぶりて、その舌お引いだして是お斬つ、千任が舌おきりおはりて、しばりかヾめて木の枝につりかけて、足お地につけずして、足の下に武衡が首おおけり、千任なく〳〵あしおかヾめて是おふまず、しばらくありて、ちから尽て足おさげてついに主の首おふみつ、