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太平記

俊墓被誅事並助光事
工藤左衛門幕の内に入て、余りに時の移り候と勧れば、俊基畳紙お取出し、頸(○)の回り押拭ひ、其紙お推開て辞世の容お書給ふ、
古来一句 無死無生 万里雲尽 長江水清
筆お閣て鬢の髪お摩給ふ程こそあれ、太刀かげ後に光れば、首は前に落けるお、自ら抱て伏給ふ、是お見奉る助光が心の中、譬て雲ん方もなし、さて泣々死骸お葬し奉り、空き遺骨お頸に懸、形見の御文、身に副て、泣々京へぞ上りける、