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太平記
三十八
畠山兄弟修禅寺城楯籠事附遊佐入道事
遊佐入道は、禅僧の、衣お著て、隻一人京お志てぞ落行ける、兎角して湯本まで落たりけるが、行合人に口脇なる疵お隠さん為に、袖にて口覆して過けるお、見る人中々あやしめて、帽子お脱せ、袖お引のけヽる間、口脇の疵無隠顕れて、可遁様無りければ、宿屋の中門に走上て、自喉ぶへ(○○○)掻放ち、返す刀に腹切て、袈裟引被きて死にけり、