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松屋筆記

女の臍より出し石の記
飯田町九段坂なる近藤五千石辰松君の家臣に、伊原佐助といふ人あり、齢は六十に近くて、妻の年は五十九ばかりになんありける、此妻今より七とせ八とせのむかしに病づきて、臍より長さ一寸或は二寸許の柔なる毛のさませし物お出すことおほかり、〈○中略〉近きころは臍より出る毛はとヾまりて、角の端などいふべき物、やうやくにあらはる、遂'にもぬけにもぬけて出ぬ、その長さ二寸あまり、幅は六分許にて、平やかなる石也、重きこと石にたがふことなく、擊にも石のひヾきありてきこゆ、かくて日お経るまヽに金色の光出て、今は黄金の質にもまがふべきばかりになん、此ゆえよしは、佐助が同僚なる余が門人、上原建胤が物語おしるせしなり、文政元年十一月朔日、高田与清、