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古事記伝

尻、同書〈○倭名抄〉に尻和名之利とあり、此如く訓べし、〈尻お、古書に、凡て加久礼(かくれ)と訓めるは、之理てふ言お俚しと思ひて、嫌へるものなり、そが皇の大前にして、書紀などお読奉る時に、忌はしき言、鄙き言などおばえりて、あるは異さまに゜読直し、あるは漏てよまずなとありし例なり、信にさるときこそ然あるべけれ、本にさへ其訓おつけむことはいかヾなり、之理てふ言も、古はつ主まであまた言き、尻字は尻久米縄など、其余もみな之理と雲に用ひたれば、異さまの訓あるべからず〉書紀には、保食神乃廻首郷国、則自口出飯、又郷海、則鰭広鰭狭亦自口出、又郷山、則毛麁毛柔亦自口出とありて、鼻尻より出ことは見えず、