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宇治拾遺物語

これも今はむかし、ある人のもとになま女房のありけるが、人に紙こひて、そこなりけるわかき僧に、かな暦かきてたべといひければ、僧やすき事といひてかきたりけり、はじめつかたはうるはしく、かみほとけによし、かん日くえ日などかきたりけるが、〈○中略〉またある日、はこ(○○)すべからずとかきたれば、いかにとはおもへども、さこそあらめとて念じて過す程に、ながくえ日のやうに、はこすべからず〳〵とつヾけかきたれば、二日三日まではねんじいたるほどに、大かたたゆべきやうもなければ、左右の手にてしりおかヽへて、いかにせん〳〵とよぢりすぢりするほどに、ものもおぼえずしてありけるとか、