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貞丈雑記
十五/言語
一陰茎おまらと雲ふは、近世の俗語にはあらず、古代よりの名也、古今著聞集、古事談、宇治拾遺物語等の古き書にまらとあり、源順が和名抄茎垂類の部に、玉茎の二字お出だして、和名おば出ださず、半馬体の条に、陰脈の二字お出して、俗雲麻良佐屋(まらさや)とあり、然れば順の時代もまらと雲ひし也、又今の世は、まらの事おへのこと雲ふは非也、和名抄には、陰囊の二字お俗に布久利(ふくり)と記し、陰核の二字おば俗雲篇乃古(へのこ)と記したり、陰核は今の世に雲ふきんたまの中のくりくり也、そのくり〳〵お古はへのこといひし也、然ればまらの事おへのこと雲は称違也、これらの名にも故実あり、何事も古今違の事あり、